特別背任などの罪で追起訴された日産自動車のカルロス・ゴーン前会長について東京地方裁判所は15日、保釈を認めない決定をしました。ゴーン前会長は去年11月の最初の逮捕以降、およそ2か月間にわたって身柄を拘束されていますが、15日の決定で勾留はさらに長期化する見通しになりました。
日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン被告(64)は私的な損失の信用保証に協力したサウジアラビア人の実業家の会社に日産の子会社から1470万ドル当時のレートで12億8000万円余りを不正に支出させたなどとして今月11日、特別背任などの罪で東京地検特捜部に追起訴されました。
これに対しゴーン前会長は起訴された内容を全面的に否認し、弁護士は保釈を請求していましたが、東京地方裁判所は15日午後、ゴーン前会長の保釈を認めない決定をしました。
裁判所は特捜部や弁護士から意見を聞いた結果、保釈を認めれば関係者との口裏合わせなど証拠隠滅のおそれがあると判断したものとみられます。
ゴーン前会長は去年11月の最初の逮捕からおよそ2か月間身柄を拘束されていて、弁護士は決定を不服として準抗告する方針ですが、裁判所が退ければ勾留はさらに長期化する見通しになりました。
ゴーン前会長は今月8日の勾留理由開示の手続きで特別背任の罪について「日産には一切損害を与えていない。実業家は長年にわたる日産のパートナーで関係部署の承認を受け相応の対価を支払った」などと主張したほか、報酬の過少記載の罪についても「検察の訴追は誤っている」などと全面的に無罪を主張していました。
「早く出たい」ゴーン前会長の近況は
ゴーン前会長は去年11月の最初の逮捕以降、2か月近く東京拘置所で身柄を拘束され弁護士に対し、「保釈はいつごろになるのか。拘置所から早く出たい」と話すこともあったということです。
今月8日に裁判所で行われた勾留理由開示の手続きで逮捕後、初めて公の場に姿を見せたゴーン前会長はほおがこけ、すこし痩せたような印象でしたが「私は無実です。検察による訴追は全くの誤りだ」などと述べ、全面的に無罪を主張しました。
前会長は翌日9日の夜に高熱を出し、一時、取り調べや接見ができない状態になりましたが、11日の朝までに熱は下がったということです。
東京地検特捜部の取り調べは年末年始も行われましたが、前会長は独房に戻ってから取り調べの内容を毎日、ノートに記録して接見の際に弁護士に報告し、積極的にみずからの主張を述べていたということです。
また、取り調べや面会以外の時間は差し入れられた10冊以上の英語の本を読んで過ごしているということで、海外の本をインターネットで購入するよう弁護士に依頼することもあるということです。
欧米メディアも速報
東京地方裁判所が日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の保釈を認めない決定をしたことを、欧米のメディアも相次いで速報で報じました。
このうち、フランスのAFP通信は「この決定は、公判が始まるまで勾留が続く可能性があることを意味している。ゴーン前会長の弁護士は、公判まで6か月かかるだろうと話している」と伝え、勾留がさらに長期化する見通しを伝えています。
さらに「ゴーン前会長の勾留は、いったん起訴されると公判前まで長期の勾留が認められる日本の司法制度に対する国際的な批判を高めている」と指摘しています。
また、アメリカのAP通信は、ゴーン前会長の妻が、勾留の長期化について「残酷で非人道的だ」として、釈放するよう訴えていることを伝えています。
勾留長期化で海外から批判
世界的な注目を集めた今回の事件では、海外メディアを中心に日本の刑事司法制度の在り方を批判する報道が相次ぎました。
ゴーン前会長は去年11月以降、3回逮捕され身柄の拘束は15日まで58日間に及んでいます。勾留が長期化していることについてAFP通信は、今月8日「今回の事件によって、明確な逮捕容疑を公にせず勾留の延長を繰り返す日本の司法制度に光が当たることになった」と批判的に報じたほか、ロイター通信は、先月21日の再逮捕の際「長期間の勾留などいくつかの慣習が批判を巻き起こしている」などと伝えました。
また、取り調べに弁護士が立ち会えないことや拘置所の環境も批判の対象になっています。
背景には、日本と欧米の刑事司法制度の違いがあるとみられ、フランスの刑事司法に詳しい日本の専門家は「一部のメディアは日本の逮捕に当たる『ガルダビュ』という手続きと比べて検察の『勾留』を長いと指摘するなど誤解に基づく批判もある」と分析しています。
そのうえで「グローバル化が進む中で、日本の刑事司法の手続きが海外からどのように見えるのか意識する必要がある。批判にも耳を傾け改善すべき点は見直す必要がある」と指摘しています。
長期拘留への批判について、東京地方検察庁の久木元伸次席検事は、これまで定例の記者会見の中で「検察は法の執行機関であり、法制度のデザインを設計する機関ではない」としたうえで、「勾留は裁判所の令状に基づいて行っているもので必要性もないのに長期間の拘束しようという意図はない」などと述べています。
否認続ける被告 勾留長期化の傾向
捜査段階で**20日間まで認められる勾留は、起訴された後も原則として2か月間認められ、その後も必要に応じて1か月ごとに更新されます。
ただ、起訴されると裁判所に保釈を請求できるようになり、認められる割合は、年々増加する傾向にあります。
犯罪白書によりますと、平成19年に勾留された人のうち保釈されたのは15.5%でしたが、平成29年には30.5%とおよそ2倍に増えています。
一方、特捜部の事件では否認を続ける被告の勾留は長期化する傾向にあり、起訴の直後に保釈が認められるのは異例です。
逮捕から保釈までの期間は、平成14年に受託収賄などの罪に問われた鈴木宗男元衆議院議員が437日。平成18年に粉飾決算の罪に問われた堀江貴文元社長は95日でした。
最近の事件では、森友学園をめぐる事件で詐欺などの罪で起訴された籠池泰典前理事長が299日、リニア中央新幹線の建設工事をめぐる談合事件で去年3月に起訴された大成建設と鹿島建設の幹部が291日、文部科学省の支援事業をめぐって、去年7月に受託収賄の罪に問われた佐野太元局長は171日でした。
特捜部の事件では、否認を続ける被告の保釈は裁判に提出する証拠のめどが立つまでは認められないケースが多いのが実情です。
大成建設などの幹部や文部科学省の佐野元局長も、裁判の前に争点を整理する手続きが進んだ段階で保釈が認められました。
日産は社内調査を継続
日産自動車は、ゴーン前会長が会社の経費の私的な流用など不正行為を繰り返していたとして、社内調査を続けています。
日産は、ゴーン前会長が去年11月、最初に逮捕された際に「重大な不正行為」が社内調査で見つかったと発表しました。
それによりますと、ゴーン前会長は、報酬を有価証券報告書に実際よりも少ない金額で記載していたこと、私的な目的で会社の「経費」や「投資資金」を支出したことの、大きく分けて3種類の不正行為を主導していたということです。
日産は、こうした不正行為は重大なコンプライアンス違反に当たるとしていて、その後も社内調査を続けています。
西川廣人社長は15日朝、報道陣の取材に社内調査については、「できるだけ早く公表したい」と述べました。
一方、ゴーン前会長による不正行為は、社内のチェック体制が十分に働かなかったことも背景にあり、日産では第三者の専門家と社外取締役による委員会で企業統治の在り方を検証するとしています。
ルノーの対応は
日産の大株主のルノーは、ゴーン前会長が金融商品取引法違反の疑いで去年11月に逮捕されて以降、開いた2回の取締役会でルノーでは会長兼CEOにとどめる決定をしています。
理由についてルノーは社内調査で不正が見つかっていないことをあげていて、逮捕のあと開いた取締役会で会長と代表取締役を解任した日産とは立場が分かれています。
このため、日産は自社が行った社内調査の結果をルノーに伝えることで経営トップから解任するよう促したい意向ですが、弁護士を通じての情報提供にとどまっています。
日産は勾留がさらに長期化する見通しになったゴーン前会長を経営トップにとどめるのかルノーの対応に注目しています。
また、日産が続けているゴーン前会長の不正行為に関する社内調査について西川社長は「これからルノーと共同で行う部分もある」と述べ、ルノーと共同で調査を行いたいという考えも示しています。
中西経団連会長「長期勾留 “世界常識では拒否”と認識すべき」
ゴーン関連日産自動車のゴーン前会長の保釈が認められず、勾留がさらに長期化する見通しとなったことについて、経団連の中西会長は15日の定例の会見で「ゴーン前会長が何をしたのかということとは別の次元の話で、長期に勾留するという今の日本のやり方は、世界の常識では拒否にあっているという事実はしっかり認識しなければいけないと思う」と述べ、勾留期間をめぐる海外メディアなどからの批判について、率直に受け止めるべきだという考えを示しました。